『2つ目の窓』死を意識することが、本当に生きること
公開日:
:
最終更新日:2019/06/15
映画:ハ行
河瀬直美監督の自信作ということで、
カンヌで受賞を目指した作品。
受賞こそは逃したが、
現地では評判だったよう。
死生観の映画。
奄美の高校生のカップルを中心に、
彼らの家族や周囲の死を通して、
生きる覚悟をみつめいていく。
哲学的なテーマを内包しているが、
映画は静かで寡黙。
奄美の美しい自然と、
土俗信仰に密着した生活感が
空気感を重視した演出で表現している。
会話も脚本よりも、
その場の雰囲気を重視しており、
ストーリーこそあれど、
ドキュメンタリーのよう。
プロの役者さんの演技と
現地の住民達がみごとにとけ込んでいる。
重要なのはその人の存在感。
いちばん感じたのは「風の音」の演出。
主人公の女子高生の母は
霊媒師で死期を迎えている。
彼女は家族たちに囲まれ、
もっとも人間らしい幸せな死を迎えていく。
女子高生は身近な死を経験することにより、
生きることを意識する。
彼との性的つながりを望むが、彼の方が躊躇する。
これって現代的な恋愛の姿だと思う。
女性の方は常に本質的なものはつかんでいるのだが、
男性の方がなかなか向き合おうとしない。
ここまで女性にリードされなくては
男らしくふるまえない男性の象徴。
メメント・モリ。
この作品のテーマすら伝わるかどうか
懸念してしまうほど、
現代社会は人間が人間らしく
生きていないのかもしれない。
関連記事
-
『花束みたいな恋をした』 恋愛映画と思っていたら社会派だった件
菅田将暉さんと有村架純さん主演の恋愛映画『花束みたいな恋をした』。普段なら自分は絶対観ないよ
-
『ピーターラビット』男の野心とその罠
かねてよりうちの子どもたちがずっと観たがっていた実写版映画『ピーターラビット』をやっと観た。
-
『美女と野獣』古きオリジナルへのリスペクトと、新たなLGBT共生社会へのエール
ディズニーアニメ版『美女と野獣』が公開されたのは1991年。今や泣く子も黙る印象のディズニーなので信
-
『フォレスト・ガンプ』 完璧主義から解き放て!
ロバート・ゼメキス監督、トム・ハンクス主演の1995年日本公開の映画『フォレスト・ガンプ』。
-
『ハイドリヒを撃て!』 スタイリッシュな実録モノ
チェコとイギリス、フランス合作の映画『Anthropoid』というブルーレイを人から借りた。
-
『ホームレス ニューヨークと寝た男』華やかさのまやかし
ドキュメンタリー映画『ホームレス ニューヨークと寝た男』。映画公開時もとても気になってい
-
『否定と肯定』感情を煽るものはヤバい
製作にイギリスのBBCもクレジットされている英米合作映画『否定と肯定』。原題は『Denial
-
『ベイビー・ドライバー』 古さと新しさと遊び心
ミュージカル版アクション映画と言われた『ベイビー・ドライバー』。観た人誰もがべた褒めどころか
-
『THE FIRST SLAM DUNK』 人と協調し合える自立
話題のアニメ映画『THE FIRST SLAM DUNK』をやっと観た。久しぶりに映画館での
-
『バッファロー’66』シネクイントに思いを寄せて
渋谷パルコが立て替えとなることで、パルコパート3の中にあった映画館シネクイントも
- PREV
- 『アオイホノオ』 懐かしの学生時代
- NEXT
- 『ゴジラ(1954年)』戦争の傷跡の貴重な記録