*

『みんなのいえ』家づくりも命がけ

公開日: : 最終更新日:2019/06/12 映画:マ行

 

念願のマイホームを手に入れる。自分の土地を得て城を持つことを夢に描くのは、日本人独特の考え方かも知れない。いかに多くの領土を所有するかが天下の分かれ目だった、戦国時代から脈々と続く遺伝子の記憶が、そう思わせるのだろうか?

家を建てるなんて、大抵の人にとって一生の買い物。ドラマチックなことが起きて当然。せっかく家を建てたのに、そのタイミングですっかり老けこんでしまう人や、大病を患ってしまう人、不幸にも亡くなってしまう人の話はよく聞く。家を建てることは、それだけエネルギーを使うことなのでしょう。もちろん家を持つことで、俄然モチベーションが上がって、人生にハリが出てくる人だっている。とにかく、家を持つということは、人生の大きな転機になるのは確か。

そんな「理想のマイホームづくり」がテーマになっているのは2001年の映画『みんなのいえ』。今年のNHK大河ドラマの『真田丸』の脚本家・三谷幸喜監督作品。

若い新婚夫婦が新居をつくろうと、妻の知り合いのデザイナーズ建築士に設計を依頼して、施工は大工の棟梁である妻の父親にお願いする。かたや新進気鋭のトンガリまくりのデザイナー、かたややスタンダードな日本家屋づくりに誇りを持つ棟梁。そんな新旧の建築の考え方を持つ両者がひとつのプロジェクトに取り組むのだから、ぶつからないわけがない。やれ玄関ドアは外開きにするか内開きにするかとか、細かいところでいちいちぶつかる。新婚夫婦の家づくりなのに彼らそっちのけで、デザイナーと棟梁の仕事に対するプライドの闘いになっていく。「なんでこんなところに柱があるんだ!」「大黒柱のない家なんて家じゃない!」両者の意見がいちいち対立してケンカになる。オロオロしっ放しの新婚夫婦。でもみんながもめてる姿が、観客はいちばん楽しい。人の不幸は蜜の味とはまさしくこのこと。そりゃあ寿命も縮まるわ。

新婚夫婦の夫の危惧も笑える。この対立しているデザイナーと棟梁、根っこは共に仕事熱心な職人さん。なにかの弾みで意気投合してしまったら、結束は揺るぎないものとなる。夢のマイホームづくりがスムーズに進むのはいいけど、これでは義父は自分よりもデザイナーと仲良くなっちゃう。お義父さんをとられちゃうと泣く夫の姿に、切なすぎていちばん笑えてしまった。

ドラマというものはストーリーや仕掛けでみせるものもあるけど、やっぱり様々な価値観や個性の人がぶつかりながら、乗り越えていく姿がいちばんおもしろい。どんなことが起きたかではなく、どんな人がいたかが重要。初期の三谷幸喜作品の人間観察は、意地悪だけど愛がある。登場人物ひとりひとりに寄りそっているからこそ、感情移入ができて楽しくなる。観客はは当初は登場人物たちのトラブルに意地悪く笑ってるけど、問題を克服したときには、一緒になって嬉しくなっちゃってる。まさに『みんなのいえ』の完成!

『みんなのいえ』は三谷幸喜監督のマイホームづくりの経験がアイデアにいかされているそうです。そんな三谷監督も離婚してしまったし、世の中もずいぶん変わってしまったような気がする。

この映画の公開当時はまだマイホームが夢だった時代。今だったらファンタジーに近い。夢だったら実現もするだろうけど、ファンタジーは夢は夢でも所詮絵空事。現実とは別世界。夢も希望もなくなってしまったような世の中だけど、今までの考え方を変えたら、フッと道が開けるかも知れない。不景気だからこそ、金利が昔より安かったりするわけだし。やっぱりなにごともヤケにならずに明るい気持ちを保つ努力が大事なんだろうな。

関連記事

no image

『マザー!』観客はそれほど高尚ではない?

ダーレン・アロノフスキー監督の『マザー!』が日本での劇場公開が中止になったのは、当時ちょっとした騒ぎ

記事を読む

マッドネエチャン・ミーツ『マッドマックス/怒りのデス・ロード』

大事なのは理屈じゃない、勢いなんだよ!! この映画『マッドマックス/怒りのデス・ロード』はそ

記事を読む

no image

『モモ』知恵の力はディストピアも越えていく

ドイツの児童作家ミヒャエル・エンデの代表作『モモ』。今の日本にとてもあてはまる童話だ。時間泥棒たちに

記事を読む

『マッシュル-MASHLE-』 無欲という最強兵器

音楽ユニットCreepy Nutsの存在を知ったのは家族に教えてもらってから。メンバーのDJ

記事を読む

no image

夢物語じゃないリサーチ力『マイノリティ・リポート』

  未来描写でディストピアとも ユートピアともとれる不思議な映画、 スピルバーグ

記事を読む

『メッセージ』 ひとりが幸せを感じることが宇宙を変える

ずっと気になっていた映画『メッセージ』をやっと観た。人類が宇宙人とファースト・コンタクトを取

記事を読む

no image

『マイレージ、マイライフ』失業、それもまた人生のチャンス。

  イケア・ジャパンが従業員全員を 正社員化することを発表した。 非正規社員

記事を読む

『未来のミライ』真の主役は建物の不思議アニメ

日本のアニメは内省的で重い。「このアニメに人生を救われた」と語る若者が多いのは、いかに世の中

記事を読む

no image

現代のプリンセスはタイヘン!!『魔法にかけられて』

  先日テレビで放送していた『魔法にかけられて』。 ディズニーが自社のプリンセスも

記事を読む

no image

『マンチェスター・バイ・ザ・シー』物語みたいに割り切れないこと

映画『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の評判は、劇場公開時からよく耳にしていた。ただ、どの感想を聞い

記事を読む

『ウェンズデー』  モノトーンの10代

気になっていたNetflixのドラマシリーズ『ウェンズデー』を

『坂の上の雲』 明治時代から昭和を読み解く

NHKドラマ『坂の上の雲』の再放送が始まった。海外のドラマだと

『ビートルジュース』 ゴシック少女リーパー(R(L)eaper)!

『ビートルジュース』の続編新作が36年ぶりに制作された。正直自

『ボーはおそれている』 被害者意識の加害者

なんじゃこりゃ、と鑑賞後になるトンデモ映画。前作『ミッドサマー

『夜明けのすべて』 嫌な奴の理由

三宅唱監督の『夜明けのすべて』が、自分のSNSのTLでよく話題

→もっと見る

PAGE TOP ↑