『ダイナミック・ヴィーナス』暴力の中にあるもの
今日は友人でもある佐藤懐智監督の『ダイナミック・ヴィーナス』を紹介します。先日、佐藤懐智監督と漫画家であり作家の内田春菊さんのトークイベントにおじゃまさせて頂きました。演目は『DVって何なの?』。この『ダイナミック・ヴィーナス』はドメスティック・ヴァイオレンスを題材にした作品なのです。いじめられればいじめられるほど強くなるスーパーヒーローの話です。佐藤懐智監督はDVや暴力についてとことん調べた上での脚本執筆をしています。作中には近年日本で起こった事件もとりあげているのですが、本作の完成は2014年、今年までのこの一年の間に日本では更なる憂慮すべき問題が増えてきているのがとても残念です。
佐藤懐智監督曰く、「この作品は社会風刺なのだけれど、社会風刺というのはどちらかに偏った視点で描いてはいけない。批判するなら全部批判する。中立でなければ社会風刺ではなくなってしまう。もしどちらかに偏ったら、それはプロパガンダになってしまうから」。社会には風刺が必要だ。閉塞感の多い今の日本のような社会ならなおさら必要。この作品はとんがった内容ではあるのだけれど、物語の構造はものすごく基本に則っている。基本とは『起承転結』やら『序破急』、『ハリウッドスタイル』といった類いのもの。どんな物語であれ、この基本を元に構築されないと、観客は面白いと感じないのです。不思議なものです。もしその原則を破った作品を観ると、たいていわけがわからないものになってしまう。『ダイナミック・ヴィーナス』は一見エキセントリックに感じるけれども、これでもかというくらいきちんと物語や心理が描かれているのです。
この作品は欧米では多くの賞を獲得しました。海外では原発のことや秋葉原通り魔事件のこと、尖閣問題や北の某国のことはあまり知られていません。本来ならば「分からない国の分からない話」にもかかわらず評価されているとのことです。ちなみにアジアではことごとく受けが悪いそうです。デリケートな問題なのでしょうね。
人間が本来持っている暴力性がテーマの本作。あえて暴力描写をダイレクトに描くことで、世の中を風刺している。自分は、かなりまっとうな道徳的(?)な作品という印象を受けた。作者のまじめさが伺え、とても好感が持てます。批判の声はいつも細かいところを指摘してくるそうです。やれ「暴力描写が」とか「犬がかわいそう」とか。そこを描くからこそのテーマなのに。根本的にものごとを分析する能力の低さに愕然とします。
佐藤懐智監督はあえてアジテーションとしてと前置きしてこう語ります。「いまの日本の作品は、観客を甘えさせ過ぎなのではないだろうか? そういった企画しか通らないのも問題だ」。自分もこれには激しく同意します。作者が観客に「これわかるか?」と仕掛けて来たり、観客が作品を如何に深読みするかとかの駆け引きが、今の世の中なくなっている。制作側も観客側もナアナアでは、お互いの人生もめちゃくちゃな方向へ向かうことだろう。作品を創るということは、たとえ娯楽作品であっても創り手にはもっと高尚な志が必要なのだと常々感じる。佐藤懐智監督にはもっともっと、今の日本の作品らしからぬ作品を作って欲しい!!
ちなみに佐藤懐智監督の次回作は、社会風刺作ではなくて60年代フレンチムービー風の恋愛ものだそうです。そのまったく違ったアプローチにまた期待してしまうのです。
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