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『ダンケルク』規格から攻めてくる不思議な映画

公開日: : 最終更新日:2019/06/11 映画:タ行, 音楽

クリストファー・ノーランは自分にとっては当たり外れの激しい作風の監督さん。

時系列が逆に進む長編処女作『メメント』は、何が起こっているのか結局わからなかった。名作と言われる『ダークナイト』シリーズや『インセプション』ですら、正直自分には難解過ぎて睡魔との戦いだった。感情移入を許さないほどの早い展開がどうもニガテ。ノーラン監督はきっと人間が嫌いなのだろう。

ただ、最近作の地味系SF『インターステラー』はメチャクチャ面白くて、何度も観直すほど大好きな映画。自分はこの監督が好きなのか嫌いなのか、ホントによくわからない。

最新作の『ダンケルク』は、第二次大戦の「ダンケルクの撤退」の映画化。スーパーヒーローものや本格的SF、その次は戦争映画と、ジャンルがバラバラなのがとても興味深い。

戦争映画と呼ばれると、ノーラン監督はすぐに否定する。『プライベート・ライアン』以降の戦争映画は、戦場の悲惨さを残虐描写満載で描く作品が主流。自然と戦争映画はR指定などの年齢制限がかけられる。でもこの『ダンケルク』は年齢レイティングがない。最近の戦争映画にしては珍しい。血を見るのが苦手な自分でも安心して観れるのかしら?

蓋を開けてみると『ダンケルク』は、戦争を舞台にしたサスペンス・アクション映画だった。上映時間中ずっとハラハラドキドキの展開。別の意味で安心してみれる映画ではなかった。

陸・海・空と3つの視点で「ダンケルクの撤退」を描く。同時進行の3つのオムニバス・ストーリーは、時系列もバラバラ。すべての話がつながったかと思いきや、またバラバラになっていくという複雑な構成。それなのに根幹は単純でわかりやすいという、なんとも頭のいい脚本。こりゃあ確かに戦争映画だけど、戦争映画ではない。

時系列を壊したのも、緊張感を継続させるためのテクニック。内容が薄くても幼稚にならない。ハンス・ジマーの煽るような音楽は、全編絶えずガンガンに響いてる。音楽かかってない場面の方が少ないくらい。CGは極力使わない戦闘シーンは大迫力。CGにすっかり慣れてしまった我々観客には、とても新鮮にみえてくる。もう何もかもがハイテクと贅を駆使。

日本での海外作品の公開は、世界でもいちばん遅いのは有名。事前にいろいろ話題が揃わないと中々映画を観てくれない日本の観客への宣伝手段。

この『ダンケルク』でも、やれIMAXで撮影されたとか、ノーラン監督が「フィルムでないなら上映するな」と言ったとか言わなかったとか、日本では監督の意図を再現できる劇場がないとか、本編内容に触れる前に規格フォーマットの話題ばかりが先行してきた。

ノーランは、このデジタル撮影主流の世の中に逆行して、フィルムの質感にこだわり続ける。そういった職人魂の神経質な発言は、確かにオタク心理をそそる。反面、映画なんて面白いことが重要で、映像規格なんてどーでもいいってのも本音。巨匠が発信してるから話題になるけど、そうでなければただの困った人。

ノーラン作品がDVDやブルーレイになると、フィルムで撮影されたショットとIMAXで撮られた絵のサイズが、それぞれノートリミングで収録される。同じ場面内で上下黒オビのあるシネマスコープサイズとビスタサイズが混在する。画面サイズがバタバタ変わり、とても落ち着かない。オリジナルサイズを尊重してるというのが言い分だけど、これはやっぱり観客に不快感になってもらうのが狙いじゃないか? 不安定な画面サイズで、潜在的に不安を煽る。ノーランの技術的なこだわりと思わせながらも、心理的に攻めてくる姑息な作戦かもしれない。

『ダンケルク』の登場人物たちにはほとんどセリフがなく、過酷な状況が与えられ、それをいかに脱するかが映画全編の見せ場。人間嫌いのノーランが、映像技術の髄を極めて見せつけるエンターテイメント。そこには反戦やら政治的テーマはかけらもない。観客は登場人物の名前すら知らないまま、彼らの脱出劇に感情移入する。当然、登場人物を好きになるヒマもない。なんとも不思議な映画体験。

世界中がキナ臭くなっている昨今。重苦しい戦争映画が多くなるなか、不謹慎なくらいテーマ性のない戦争映画だ。戦争映画はこうであるというフォーマットを、これでもかと壊している。これはこれで存在理由がある。

フィルムの質感とか、フォーマットに神経質なノーラン監督だからこそ気づいた、戦争映画のフォーマット化の破壊。保守的なんだかアグレッシブなんだかよくわからない。ホントにノーラン作品はよくわからない。だからこそ気になって観てしまうのかも。

体感型アトラクション戦争映画なんて、どう宣伝したらいいかわからない。だからこそ規格やら技術やらの話題でアプローチするしかない。エモーショナルだけど感動とは違う。不思議な映画。

平日の昼間に映画館に行ったせいか、劇場のおじいちゃん率はハンパなかった。自分でも若造の部類に入ってしまう。やっぱり戦争映画はおじいちゃんの大好物なのか?

老人か学生しか映画を観ない現代日本。これもまた不思議な現象なのだろう。


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