夢物語じゃないリサーチ力『マイノリティ・リポート』
未来描写でディストピアとも
ユートピアともとれる不思議な映画、
スピルバーグ監督の『マイノリティ・リポート』。
この映画に出てくる車のデザインや、
空間にタッチパネル映像を
浮かび上がらせる技術は映画公開を
13年迎えた今では現実のものとなっている。
企業が宣伝の為に情報提供して
タイアップしていたのかもしれないけど。
この作品は映画そのものの面白さより、
ギミックの先見性を楽しむものなのかもしれない。
この映画の未来のイメージは、
スピルバーグ監督の前作『A.I.』を踏襲している。
フィリップ・K・ディックの短編小説を
大胆アレンジした本作。
プレコグ(超能力者)を使って
これから犯罪を起こすであろう人を、
未然に逮捕する特捜員をトム・クルーズが演じてる。
テクノロジーが進化しても、
超能力のようなオカルト的なものに
頼っているのが皮肉。
超能力者も人間なので、人権を無視している。
この映画では網膜が個人情報のIDとされている。
網膜をチェックすれば、その人のアイデンティティが
一瞬にして分かるようになっている。
その人の網膜から、その人の趣味嗜好をよみとって、
街中の看板がその人の好きそうな内容に変わる。
きもちわるいな~と映画を観て思っていたが、
今のSNSの広告画面なんて、
まったくそのものになっている。
これ、売る側には客層を絞れて
効率のいい売り方が
出来るかもしれないけれど、
受け手からすると偏った情報しか
入ってこない事になる。
個人にとっては世界が自分の趣味の物しか
なくなってしまうということ。
これは危険。
人間関係や社会生活は、
自分の趣味だけではやっていけない。
一見無関係なようなものから、
新しい人生が開けたりする事もある。
企業に都合の良い世の中というものは、
個人の可能性を閉ざしてしまうのかもしれない。
ある程度の大人だったら、
それくらいは感じ取れるだろうが、
若い子がネットの世界に触れて、
世界観が矮小化するのはとてもよろしくない。
小さい時から映画好きだった自分は、
社会に出るまで、
映画を観ない人が世の中にいるなんて
想像すらしていなかった。
でもそんな趣味の違う人とでも仲良くできるし、
そういった人から、
自分の知らないことを教わったりする。
それが人生だと思う。
狭い世界がすべてになると、
あらゆるチャンスを逃すことにもなりかねない。
ネットは大人にとっても危険だけれど、
子どもには極力触れさせない方が良いのかもしれない。
関連記事
-
-
『ルックバック』 荒ぶるクリエーター職
自分はアニメの『チェンソーマン』が好きだ。ホラー映画がダメな自分ではあるが、たまたまSNSで
-
-
『博士と彼女のセオリー』 介護と育児のワンオペ地獄の恐怖
先日3月14日、スティーヴン・ホーキング博士が亡くなった。ホーキング博士といえば『ホーキング
-
-
『うつヌケ』ゴーストの囁きに耳を傾けて
春まっさかり。日々暖かくなってきて、気持ちがいい。でもこの春先の時季になると、ひ
-
-
『モモ』知恵の力はディストピアも越えていく
ドイツの児童作家ミヒャエル・エンデの代表作『モモ』。今の日本にとてもあてはまる童話だ。時間泥棒たちに
-
-
『勝手にふるえてろ』平成最後の腐女子のすゝめ
自分はすっかり今の日本映画を観なくなってしまった。べつに洋画でなければ映画ではないとスカして
-
-
『レディ・プレイヤー1』やり残しの多い賢者
御歳71歳になるスティーブン・スピルバーグ監督の最新作『レディ・プレイヤー1』は、日本公開時
-
-
『未来を花束にして』勝ち得たものの代償
イギリス映画の『未来を花束にして』。100年前のロンドンを舞台に、女性の選挙権の必要性を訴え
-
-
『真田丸』 歴史の隙間にある笑い
NHK大河ドラマは近年不評で、視聴率も低迷と言われていた。自分も日曜の夜は大河ドラマを観ると
-
-
『チェンソーマン』 サブカル永劫回帰で見えたもの
マンガ『チェンソーマン』は、映画好きにはグッとくる内容だとは以前から聞いていた。絵柄からして
-
-
『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』アメコミみたいなアイツ
トム・クルーズが好きだ! 自分が映画を観るときに、監督で選ぶことはあっても、役者で決めることはほとん