*

『ファインディング・ドリー』マイノリティへの応援歌

公開日: : 最終更新日:2019/06/12 アニメ, 映画:ハ行, 音楽

 

映画はひととき、現実から逃避させてくれる夢みたいなもの。いつからか映画というエンターテイメントも、限られた人しか観なくなりはじめている。朝から夜中まで働き、休日も返上することを良しとするビジネスマンからしてみれば、映画なんてくだらないものだろう。

それもあってかなくてか、映画ファン、とくにアニメファンなんかは、いろんな意味でマイノリティな客層がメインになってきた感じがする。最近のディズニー作品は、あきらかにマイノリティのお客さんに向けて、映画をつくっているような気がする。

この『ファインディング・ドリー』の前作『ファインディング・ニモ』では、生まれつき片方のヒレが小さいというハンディキャップをもつ息子を、過保護にしがちになるという親子の関係がテーマだった。

時代が変わって、前作から13年の歳月が過ぎての新作。マイノリティの気持ちをさらに深くみつめる続編が誕生した。

ドリーは物忘れが激しい健忘症。それは障害でもあり、個性でもある。障害を持つ子どもの気持ち、その親の気持ち、そして障害を持つ子が大人になったら……。ファンタジックな海の世界で、現実的なシビアな問題を描いている。登場する魚たちも、みななにかしらの障害を抱えている。難しいテーマにもかかわらず、映画は最初っから最後まで、ハラハラドキドキの連続! 小さな子どもから、大の大人まできゃあきゃあ言いながら、ドリーたちとともに冒険の旅へ‼︎

ドリーの幼少期のベビードリーがかわいすぎ! 自分は子どもたちと映画を観たので、吹き替え版だった。やっとこさ喋れるような子役の声優さんの演技が笑いを誘う。こんな愛らしい子どもとはぐれてしまった親の気持ちを想像するだけで、琴線を刺激する。

ベビードリーが迷子になっても、大人たちが助けてくれない。ウチの娘はショックを受けていた。誰もが自分が生きていくだけで精一杯の都会の世知辛さのよう。映画鑑賞後、息子は母親から離れるまいとガッシリくっついて歩いていた。

忘れん坊のドリーが自分が迷子なのだと、うまく説明できない。ひとりぼっちでさまよいながら、大人になってしまった。マーリンと出会うまで、ずっとひとりだったのが悲しくなる。ドリーの人の良さ、というか「魚のよさ」は、小さいときから冷たくあしらわられ続けてきたからこその処世術。

健忘症だって忘れたくないことはある! 障害をもつ者の信念のひとつのカタチ。観客はドリーとの旅にワクワクしながら、いつの間にか彼女の心の傷にも共感してしまう。

旅の途中、新たに相棒となるタコのハンクがカッコイイ!ストーリーを進めているのは、じつはこのタコだったりする。大活躍! 思わずぬいぐるみを買ってしまった‼︎

エンディングでは『unforgettable』がかかる。最近のディズニー・ピクサー恒例の吹き替え版は各国ローカライズバージョン。八代亜紀さんには罪はないが、やはりオリジナルのシーア版のほうが良いに決まってる。

シーアという、いまノリにノッてるアーティストが、ドリーの心情を歌うからこそ意味がある。シーアのソロの曲からもわかるように、彼女の人生のドン底から這い上がってくる、叫びのカタルシスは、心に響くものがある。昭和歌謡の懐古主義もいいけれど、やっぱり「いま」を感じさせるパワーにはかなわない。

すっかりニュアンスが変わってしまった日本版エンディング。こりゃオリジナル版も観直さなくてはいけないな。

 

関連記事

『フロリダ・プロジェクト』パステルカラーの地獄

アメリカで起きていることは、10年もしないうちに日本でも起こる。日本は、政策なり事業なり、成

記事を読む

『ローガン』どーんと落ち込むスーパーヒーロー映画

映画製作時、どんな方向性でその作品を作るのか、事前に綿密に打ち合わせがされる。制作費が高けれ

記事を読む

『名探偵ピカチュウ』日本サブカル、これからどうなる?

日本のメディアミックス作品『ポケットモンスター』を原作に、ハリウッドで製作された実写映画『名

記事を読む

『ジョーズ』 刷り込みでないと言ってくれ!

平日の昼間に放送しているテレビ東京の『午後のロードショー』は、いつも気になっていた。80年代

記事を読む

『ふがいない僕は空を見た』 他人の恋路になぜ厳しい?

デンマークの監督ラース・フォン・トリアーは ノルウェーでポルノの合法化の活動の際、発言して

記事を読む

『八甲田山』ブラック上司から逃げるには

今年になって日本映画『八甲田山』のリマスター・ブルーレイが発売されたらしい。自分の周りでも「

記事を読む

no image

『ラ・ラ・ランド』夢をみること、叶えること

ミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』の評判は昨年末から日本にも届いていた。たまたま自分は日本公開初日の

記事を読む

『平家物語(アニメ)』 世間は硬派を求めてる

テレビアニメ『平家物語』の放送が終わった。昨年の秋にFOD独占で先行公開されていたアニメシリ

記事を読む

『オクジャ okuja』 韓国発、米国資金で米国進出!

Netflixオリジナル映画『オクジャ』がメディアで話題になったのは2017年のこと。カンヌ

記事を読む

『天気の子』 祝福されない子どもたち

実は自分は晴れ男。大事な用事がある日は、たいてい晴れる。天気予報が雨だとしても、自分が外出し

記事を読む

『ウェンズデー』  モノトーンの10代

気になっていたNetflixのドラマシリーズ『ウェンズデー』を

『坂の上の雲』 明治時代から昭和を読み解く

NHKドラマ『坂の上の雲』の再放送が始まった。海外のドラマだと

『ビートルジュース』 ゴシック少女リーパー(R(L)eaper)!

『ビートルジュース』の続編新作が36年ぶりに制作された。正直自

『ボーはおそれている』 被害者意識の加害者

なんじゃこりゃ、と鑑賞後になるトンデモ映画。前作『ミッドサマー

『夜明けのすべて』 嫌な奴の理由

三宅唱監督の『夜明けのすべて』が、自分のSNSのTLでよく話題

→もっと見る

PAGE TOP ↑