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『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』 日本ブームは来てるのか?

公開日: : アニメ, 映画:サ行, 配信

アメリカで、任天堂のゲーム『スーパーマリオブラザーズ』を原作にしたCGアニメが大ヒット。2023年ゴールデンウィークのニュースが賑わう。『ミニオンズ』のスタジオ・イルミネーションが制作のアニメ映画と聞けば、当然面白いだろうと想像がつく。近年のハリウッド映画で、日本原作の作品は多い。ハリウッド版『ゴジラ』や、スティーブン・スピルバーグ監督の『レディプレイヤー1』は原作ではないが、日本のキャラクターがたくさん登場する。ギレルモ・デル・トロ監督の『パシフィック・リム』なんかは、原作なしのオリジナル作品ではあるものの、日本のサブカルが元ネタとなっている。『パシフィック・リム』のアメリカのレジェンダリー社は、『機動戦士ガンダム』の実写化の準備もしているらしい。『ポケット・モンスター』の世界的人気は周知の通り。

日本の作品が、世界で評価される姿は喜ばしい。今までの世界標準による国際マーケット上での映画化のスタイルは、原作権をハリウッドに売って、日本は作品制作には直接携わらないものだった。日本原作の作品だけど、アメリカ映画として世界配給される。自分の子どもたちも、『ゴジラ』はアメリカ映画が元で、日本版が後からつくられたものだと思っていた。それくらい日本の作品は、たいしたことがないという印象。国産映画への肯定感の低さ。

日本の映像作品では製作委員会制度というものが主流。製作委員会とかいうと、学校行事の運営係みたい。製作委員会制度とはなんぞや。作品製作に出資する企業が一社に絞られことはなく、多くの出資者によって予算がつくられる制度。出資作品がもしコケて負債ができてしまっても、責任の所在が分散される。出資者が大損する危険性が少なくて済む。リスクを恐れ、責任は取りたくはないという、なんとも日本人的な発想。保身ばかり気にしていると冒険はできない。出資者は金を出すからには口も出す。いつしか出資者の企業CMに作品意図が向かって行く。そうなると作品にはリスクはなくとも自由もない。はたして作品が完成しても、クリエイターが企画時にあげた意図の作品になる可能性は極めて低い。

それでもときには予想だにしなかった大ヒット作も生まれたりする。世の中の時流にたまたま合っていたり、偶然が重なっての大当たり。あらかじめ計算してのヒットではないので、後々のマーケティングの参考になりづらい。ただ、ラクして儲けたい出資者は、その奇跡に縋る。学びなき前例。そしてひとたびヒット作となれば、海外から原作権を売って欲しいと声もかかる。そうなると弊害になるのは製作委員会制。責任者が分散されている分、権利の取り合いになってしまう。あさましい椅子取りゲームの始まり。海外からのエージェントも呆れて本国へ帰ってしまう。日本は自国で世界標準作品を製作するレベルまでいっていないことになる。まずは海外エージェントと渡り合える折衝力を身につけることが最大の課題。それが15年くらい前のこと。その頃、メディアや政府が、クールジャパンだとかニッポンスゴイとか言っていた。国内アニメスタジオが、バタバタ潰れていたのも同時期。

そんな中でも、上手に海外から資金源を得る制作スタジオも増えてきた。日本国内で出資者は見つかりにくい。思えばこれは、当時隠されていた日本の不景気の現れでもある。このまま面白い企画がお蔵入りで、制作スタジオも潰れてしまうのなら、お金出すよと言う海外出資者はいくらでもいる。円安と重なり、資金が出やすい。そしてコロナ禍を通して、サブスクによるコンテンツ世界配信がし易くなることで、日本のコンテンツに触れる海外ユーザーが急増する。海外において、日本の作品が観られるようになってきた。

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、日本の人気ゲームコンテンツとハリウッド映画の融合でできた夢の企画。制作はイルミネーションと任天堂の連名なのに驚いた。日本が原作権を、ただただ売り飛ばす今までのやり方ではなく、日本の企業とハリウッド大手スタジオとの共同制作作品。文字通り「日米合作映画」。イルミネーションは以前にもフジテレビと企業提携しているから、それも布石になっているのだろう。映画のクレジットに、日本人の名前が英語表記で連立することに嬉しくなってしまう。

ゲームの原作をつくった会社と、ハリウッドの人気アニメスタジオのタッグ。ゲームファンも映画ファンも期待してしまう。でも自分はゲームが苦手。どうもコントローラーを使うことが苦手らしく、ゲームが面白いと思えるような入口にも達せない。だから「ゲームなんてくだらない」とか言う、わからず屋の老害的な感覚で「ゲームが無理」と言っているわけではない。むしろ本心はゲームの楽しさを知りたいくらい。寂しい。

だから自分は『スーパーマリオ』というゲームこそは知っていても、きちんとプレイしたことがないと思う。それでもこのゲームのことは知っているし、音楽や効果音も聞いたことがある。この映画版が、どれだけ忠実にゲームの世界観を映画的に膨らませて演出しているかも感じ取ることはできる。ゲームのステージに合わせた音楽が、オーケストラの演奏になっていたり、今までビットのゲーム世界だったものが、滑らかで美麗なCG表現されていることに純粋に感動したい。たぬきに変身したら空を飛べるって、どういうことなのかも気になって仕方がない。ゲームを知っていれば、10倍以上この映画を楽しめたのが想像できる。ちょっと悔しい。

イルミネーションは、ディズニー・ピクサーと並ぶ大手アニメスタジオ。ピクサーは作品の題材選びも高尚で、一般映画作品として斬新なものをつくろうとしている。社会に啓蒙を訴えかけるような作品づくり。よく比べられるイルミネーションは、「自分たちの作風は小ネタで勝負する」と言っている。高尚な作風のアニメが評価されているからと言って、どこもそれを真似する必要はない。むしろ二番煎じを狙うより、独自の道を進んで行った方が利口。それに自分はイルミネーション作品のショートコントみたいな小ネタは大好き。かわいいキャラクターが、ずっと悪ふざけしている姿は、風刺にもなってくる。ちょっといじわるな語り口もいい。イルミネーションの作品に出てくるキャラクターたちのような、ポジティブシンキングは、処世術として見習いたい。いい意味でのおバカさんは、何よりも強い。

2020年代のハリウッド映画ということで、ピーチ姫がたくましい女性として描かれている。お姫様というと、高い塔に幽閉されて、勇敢な戦士の救けをずっと待っている古いイメージがある。子どもに聞くと、マリオ関係のゲームはたくさんあるので、そのゲームによってキャラクターの性格が違ったりするとのこと。ピーチ姫はスペックが高くて強い場合が多いので、男の子でも選んでプレイするらしい。そんな強いピーチ姫が、いきなり拐われたりするのは矛盾している。今回この映画のピーチ姫は、ハイスペックの戦士のようなお姫様。かわいくて強いなんて、アニメのキャラとしては無敵すぎる。

2023年は、アメリカで日本がらみの映画が次々ヒットした。この『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』はそのブームの始まりみたいなもの。その後、山崎貴監督の『ゴジラ ー1.0(Godzilla Minus One)』や宮﨑駿監督の『君たちはどう生きるか(The Boy and the Heron)』がアメリカのヒットチャートを賑わせた。外国語映画は絶対観ないというアメリカの観客が、日本語の『ゴジラ マイナスワン』を喜んで観る。日本語音声&英語字幕のオリジナル音声版での鑑賞。それもこれも配信でアニメを観ている層が、日本の声優さんの演技がすごいということを知っていたからだからだろう。原語で映画を観る楽しみ。今までは、日本のアニメも英語吹替版ができてこそ初めて世界マーケティングに乗れていた。声優という職業は、日本独自のもの。海外では声優という職業はなく、普通の俳優が声優としてキャスティングされる。日本の声優業の特化が世界に通じた。海外吹替版担当の役者さんが、日本の声優さんと並ぶのが辛くなってしまうくらいの人気。でもなんでいま日本の作品がキテるのだろう。

この世界的な日本映画ブームは、先陣の韓国カルチャーによるものが大きそう。欧米からみたら、日本や韓国、中国など東アジアは同じようなもの。ざっくりとしていて区別がつかない。近年の韓国映画『パラサイト』が、外国語映画にも関わらずアメリカのアカデミー賞を獲ったり、BTSの曲のヒットの影響は大きい。ハリウッド映画に飽きた観客が、アジアの作品に興味が湧いてきたのだろう。10年くらい前までは、ネイティブの発音で歌われない曲は、絶対ヒットしないとまで言われていた。今ではアジア訛りの英語も新しくて面白いとなっている。英語ネイティブの人が、わざとアジア訛りの英語を真似して歌ったり、セリフを真似したりしている。それはバカにしているのではなく、純粋にカルチャーギャップを楽しんでいるよう。

韓国は1990年代に経済破綻して、その対抗策としてエンターテイメントなどの第三産業に力を入れることを国策とした。韓国内市場だと需要が小さすぎる。最初から世界標準に通用するエンターテイメントの育成に、国を賭けて力を注いでいる。その成果がここのところで結実している。国をあげてのソフトパワーの確立。その間、日本は何もしてこなかったのが恥ずかしい。日本では、政治でカルチャーを利用や搾取こそすれど、支援や投資はしていない。もともと韓国カルチャーは、日本を手本にしていたところが大きいので皮肉。20年前までは、日本もアメリカに次ぐエンターテイメント大国だった。日本の政治家には、「能とか歌舞伎とか、古典は儲からないから無くしてしまえ」とまで言っている人もいるくらい。情け無いというか、この先この国が心配。どうするどうなる日本カルチャー。

この『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、今後も多くの人たちに愛されていく作品だろうし、続編もつくられていきそう。たまたま日本のサブカルチャーが今は人気だけど、これが一過性のものでないようにして欲しい。投資や育成、売込みや宣伝が苦手な日本人。このまま上手く追い風に乗って、不景気から脱していければと思う。サブカルチャーという楽しい風に乗っていくのなら、どこまでも行けそうな気がする。この夢の実現は、個人や企業だけの力では限界がある。今こそ国力あげて、ソフトパワーに着手して欲しい。今まで日本は文化を見下してきた。文化の力をバカにしてはいけない。

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