ある意味アグレッシブな子ども向け映画『河童のクゥと夏休み』
アニメ映画『河童のクゥと夏休み』。
良い意味でクレイジーな子ども向けアニメ映画です。
上映時間が2時間半近くあるのも常識を越えている。
地味な映画だったので、
自分は当初あまり興味がなかったのですが、
良い評判を多く耳にしたので、
これはなにかあると感じ劇場へ!
始まって5分もしないうちに
制作者の「本気の覚悟」を感じました。
子供騙しを作るつもりはないと。
メガホンをとったのは原恵一監督。
初期の『クレヨンしんちゃん』映画の監督。
『クレヨンしんちゃん』は彼の作品から、
子どもにみせたくないアニメから、
大人が泣けるアニメへと変化した。
アニメ作品ながら、演出はいたって実写映画のよう。
原監督は後に、木下惠介監督のオマージュの
実写作品も発表しているから、
アニメとか実写とかの垣根はもともとないのでしょう。
キャラクターデザインも今の流行と逆行するような
あまりかわいくないタッチ。
完全に今のナヨナヨしたアニメ界に投石している。
映画の内容自体が素晴らしい。
現代の社会問題を子どもたちにわかりやすく提示している。
環境問題、いじめ、親の離婚、マスコミの無配慮、
SNSの暴走、会社でのしがらみ……。
様々な要素を詰め込んでいるが、
根本的に「心の尊厳」を説いている。
文明が進むと、人が人らしく生きられなくなっていく。
我々はいまそのまっただ中にいる。
人がたくさんいるのに閉塞感や孤独感を
感じている人のなんと多いことか。
自殺者が多い日本。
日本ほど文明が豊かでありながら、
心が渇いている人が多いのもめずらしいだろう。
河童のクゥというキャラクターは、
土俗信仰を尊ぶ種族の象徴。
日本人からすると異文化の存在。
しかしながらどんな種族もはじめは、
自然を尊び、心をみつめることはしている。
現代人が忘却の彼方においてしまった感覚。
クゥは人間社会で、イヤな経験をたくさんします。
それでも彼の心はささくれることなく、
自然の世界へ回帰していきます。
この作品を通して、大人も子どもも、
いろいろ感じてみるのも良いかも知れません。
ちょっとヘビーな映画ですが。
ちなみに作中で主人公たちは、
河童のルーツを探すため
遠野への旅をします。
この映画のあと3.11震災が起こります。
作品で描かれている遠野の風景も、
今は別物になっているかもしれません。
実存する風景をリアル描いている本作。
かつてあったけれど今はない風景がここにはあるのです。
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