*

ある意味アグレッシブな子ども向け映画『河童のクゥと夏休み』

公開日: : 最終更新日:2019/06/15 アニメ, 映画:カ行,

 

アニメ映画『河童のクゥと夏休み』。
良い意味でクレイジーな子ども向けアニメ映画です。
上映時間が2時間半近くあるのも常識を越えている。

地味な映画だったので、
自分は当初あまり興味がなかったのですが、
良い評判を多く耳にしたので、
これはなにかあると感じ劇場へ!

始まって5分もしないうちに
制作者の「本気の覚悟」を感じました。
子供騙しを作るつもりはないと。

メガホンをとったのは原恵一監督。
初期の『クレヨンしんちゃん』映画の監督。
『クレヨンしんちゃん』は彼の作品から、
子どもにみせたくないアニメから、
大人が泣けるアニメへと変化した。

アニメ作品ながら、演出はいたって実写映画のよう。
原監督は後に、木下惠介監督のオマージュの
実写作品も発表しているから、
アニメとか実写とかの垣根はもともとないのでしょう。

キャラクターデザインも今の流行と逆行するような
あまりかわいくないタッチ。
完全に今のナヨナヨしたアニメ界に投石している。

映画の内容自体が素晴らしい。
現代の社会問題を子どもたちにわかりやすく提示している。
環境問題、いじめ、親の離婚、マスコミの無配慮、
SNSの暴走、会社でのしがらみ……。

様々な要素を詰め込んでいるが、
根本的に「心の尊厳」を説いている。

文明が進むと、人が人らしく生きられなくなっていく。
我々はいまそのまっただ中にいる。
人がたくさんいるのに閉塞感や孤独感を
感じている人のなんと多いことか。

自殺者が多い日本。
日本ほど文明が豊かでありながら、
心が渇いている人が多いのもめずらしいだろう。

河童のクゥというキャラクターは、
土俗信仰を尊ぶ種族の象徴。
日本人からすると異文化の存在。

しかしながらどんな種族もはじめは、
自然を尊び、心をみつめることはしている。
現代人が忘却の彼方においてしまった感覚。

クゥは人間社会で、イヤな経験をたくさんします。
それでも彼の心はささくれることなく、
自然の世界へ回帰していきます。

この作品を通して、大人も子どもも、
いろいろ感じてみるのも良いかも知れません。
ちょっとヘビーな映画ですが。

ちなみに作中で主人公たちは、
河童のルーツを探すため
遠野への旅をします。

この映画のあと3.11震災が起こります。
作品で描かれている遠野の風景も、
今は別物になっているかもしれません。

実存する風景をリアル描いている本作。
かつてあったけれど今はない風景がここにはあるのです。



関連記事

『ホットスポット』 特殊能力、だから何?

2025年1月、自分のSNSがテレビドラマ『ホットスポット』で沸いていた。自分は最近ではほと

記事を読む

『SAND LAND』 自分がやりたいことと世が求めるもの

漫画家の鳥山明さんが亡くなった。この数年、自分が子どものころに影響を受けた表現者たちが、相次

記事を読む

『ドライブ・マイ・カー』 綺麗な精神疾患

映画『ドライブ・マイ・カー』が、カンヌ国際映画祭やアカデミー賞で評価されているニュースは興味

記事を読む

no image

『作家主義』の是非はあまり関係ないかも

  NHKでやっていたディズニーの 舞台裏を描いたドキュメンタリー『魔法の映画はこ

記事を読む

『STAND BY ME ドラえもん』 大人は感動、子どもには不要な哀しみ?

映画『STAND BY ME ドラえもん』を 5歳になる娘と一緒に観に行きました。

記事を読む

no image

『花とアリス』男が描く少女マンガの世界

  岩井俊二監督作品『花とアリス』が アニメ化されるというニュースが来ましたね。

記事を読む

no image

『ワールド・ウォーZ』ゾンビものとディザスターもののイノベーション

  ブラッド・ピットが自ら製作も手がけた 映画『ワールド・ウォーZ』。 ゾン

記事を読む

『黒い雨』 エロスとタナトス、ガラパゴス

映画『黒い雨』。 夏休みになると読書感想文の候補作となる 井伏鱒二氏の原作を今村昌平監督

記事を読む

no image

『ルパン三世 カリオストロの城』これって番外編だよね?

  『ルパン三世』が30年ぶりに テレビシリーズになるとのことで。 数年前か

記事を読む

no image

『ひつじのショーン』おっと、子供騙しじゃないゾ!!

  ひつじ年を迎え『ひつじのショーン』を 無視する訳にはいかない。 今年はも

記事を読む

『侍タイムスリッパー』 日本映画の未来はいずこへ

昨年2024年の夏、自分のSNSは映画『侍タイムスリッパー』の

『ホットスポット』 特殊能力、だから何?

2025年1月、自分のSNSがテレビドラマ『ホットスポット』で

『チ。 ー地球の運動についてー』 夢に殉ずる夢をみる

マンガの『チ。』の存在を知ったのは、電車の吊り広告だった。『チ

『ブータン 山の教室』 世界一幸せな国から、ここではないどこかへ

世の中が殺伐としている。映画やアニメなどの創作作品も、エキセン

『関心領域』 怪物たちの宴、見ない聞かない絶対言わない

昨年のアカデミー賞の外国語映画部門で、国際長編映画優秀賞を獲っ

→もっと見る

PAGE TOP ↑