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『父と暮らせば』生きている限り、幸せをめざさなければならない

公開日: : 最終更新日:2019/06/15 映画:タ行,

 

今日、2014年8月6日は69回目の原爆の日。

毎年、この頃くらいは戦争と平和について
じっくり考えようと思う。

映画『父と暮らせば』は井上ひさし氏の
戯曲が原作となっている。
黒木和雄監督の『戦争レクイエム三部作』の
最終作にあたります。

広島が被爆した3年後が舞台となり、
宮沢りえ氏と原田芳雄氏、
殆ど二人だけのお芝居。

小さな芝居小屋で、
役者さんの呼吸まで伝わる距離で
お芝居をみているような臨場感。

被爆経験のある主人公の女性は
ある男性に恋をします。
しかしその気持ちを封じ込めようとします。
たくさんの知り合いが目の前で死んでいるのに
自分だけ幸せな人生を送る訳にはいかないと。

戦争で悲惨な経験をして生き残っても、
自分を責めてしまう人が多いのです。

死んでいった隣人の方が
価値ある人だったのでは?
なぜ自分が生き残ったのか?

戦争に限らず、悲惨な体験をした方は
同じような思考に陥ってしまう。
一生の傷。

主人公の父は娘に諭します。
「生きているんだから、幸せになれ!」

切実な願い。
作品は終止このことだけを語っています。

幸せになる。
それはささやかなことではある。
しかしそこには勇気と覚悟がいるのです。

ましてや自分の周りには
そんな「ささやかな幸せ」も得られず
死んでいった人たちが大勢いる。

作品はファンタジー性も孕んでいるが、
テーマは現実的。

実際にあった広島の原爆投下。
そこで人生を滅茶滅茶にされた市井の人々。

作品は怖く、悲しく、
そしてかすかな希望をみせて
静かに幕を閉じます。

観客の我々に静かなひっかき傷を残します。

原作の井上ひさし氏も、
監督の黒木和雄氏も、
父役の原田芳雄氏も、
あの闇の向こう側に行ってしまった。

これから戦争を知る語り部がいなくなり、
戦争に対する認識が
どう変わっていくのでしょうか……。

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